著者
江田 邦夫 大田黒 滋 松嶋 喬 品川 敦彦 池松 秀之 柏木 征三郎
出版者
The Japanese Association for Infectious Diseases
雑誌
感染症学雑誌 : 日本伝染病学会機関誌 : the journal of the Japanese Association for Infectious Diseases (ISSN:03875911)
巻号頁・発行日
vol.86, no.3, pp.274-281, 2012-05-20
参考文献数
12
被引用文献数
3

長崎県壱岐市(人口約30,000 人の島)におけるA(H1N1)pdm09 の流行状況を調査した.流行は,2009 年8 月に始まり2010 年3 月に終ったが,流行が始まる以前より市医師会では対策委員会を立ち上げていた.流行開始後各医療機関ではインフルエンザと診断した患者について,その日のうちに保健所にFax で連絡した.保健所はその報告患者数を毎日集計し,流行状況により医師会は学校長及び教育委員会と協議し,学級・学年閉鎖,休園・休校を行った.本市での流行は,ピークが分散し2 峰性となったが,これらの措置が迅速かつ徹底して行われたためと考えられた. <BR> A(H1N1)pdm09 ウイルスの罹患者は2,024 例で全人口の6.6%であった.年齢群別の人口における罹患率は10~19 歳が最も高く849 例(26.8%),ついで0~9 歳の594 例(21.3%)で,19 歳以下が全罹患者の71.3%を占めた.60 歳以上の高齢者の罹患率はきわめて低かった.A(H1N1)pdm09 ウイルスの抗体保有状況をみるため,流行終息後の2010 年9 月21 日~11 月15 日までに一般住民358 例の採血を行い,A(H1N1)pdm 09 ウイルスのHI 価を測定した.HI 価≧1 : 40 は全体の57.3%で,7~49 歳までが約70%と高率であった.これらのHI 価≧1 : 40 の要因を検討したが,最も多いのはワクチン接種,次いでA(H1N1)pdm09 罹患で,不顕性感染は11.7%と低かった. <BR> 以上から,壱岐市でのA(H1N1)pdm09 の流行について, <BR> 1.罹患率は全人口の6.6%であった. <BR> 2.罹患者の71.3%は19 歳以下であり,高齢者の罹患率はきわめて低かった. <BR> 3.流行に対して学級・学年閉鎖,休園・休校が有効であり,2 峰性となった.
著者
藤田 浩之 曽我 隆義 鈴木 淳一 石ケ坪 良明 毛利 博 大久保 隆男 長嶋 洋治 三杉 和章
出版者
一般社団法人 日本感染症学会
雑誌
感染症学雑誌 : 日本伝染病学会機関誌 : the journal of the Japanese Association for Infectious Diseases (ISSN:03875911)
巻号頁・発行日
vol.69, no.4, pp.398-403, 1995-04-20
参考文献数
18

横浜市立大学医学部第1内科に入院したHIV陽性患者について, 臨床的病理学的検討を加えたので報告する. 対象は, 1988年2月より1994年5月までの約6年間に, 当科に入院したHIV陽性患者13例で, 外国人の1例を含め, 全例が男性であり, 初回入院時の年齢は, 18~70歳であった. 感染経路は, 血液製剤輸注8例, 性交渉5例で, 現在までに11例がAIDSを発症しており, 内6例が死亡している. 発症原因は, カリニ肺炎, HIV脳症などで, 発症時のCD4陽性リンパ球数は3.4~220/μl (平均73/μ1) であった. 延べ25回の入院理由は, 日和見感染が19回で, その内6回をカリニ肺炎が占めるが, 最近では予防を行っているため減少している.剖検は4例で施行された. 死亡時のCD4陽性リンパ球数は平均6.1/μlであり, 高度に細胞性免疫が低下した状態であった. 脳では, 脳の萎縮や, HIV脳症の特徴的所見であるグリア結節の形成がみられ, 皮膚では, パピローマウイルスによる尖圭コンジローマや, ポックスウイルスによる伝染性軟属腫がみられた. また全例でサイトメガロウイルス感染を示す封入体が認められた. AIDS発症からの生存期間は5カ月から42カ月で, 50%生存期間は26カ月であった. 現在AIDSは予後不良の疾患群であるが, その生存日数は延長の方向にあり, すべての医療従事者はAIDSに対して, より積極的な対応を求められている.
著者
菅原 民枝 大日 康史 川野原 弘和 谷口 清州 岡部 信彦
出版者
一般社団法人 日本感染症学会
雑誌
感染症学雑誌 : 日本伝染病学会機関誌 : the journal of the Japanese Association for Infectious Diseases (ISSN:03875911)
巻号頁・発行日
vol.85, no.1, pp.8-15, 2011-01-20
参考文献数
14
被引用文献数
2 5

【目的】新型インフルエンザ(2009 インフルエンザA(H1N1))対策では,発生時の早期探知,日ごとの流行状況をモニターするリアルタイムサーベイランスが必要である.そこで本研究は調剤薬局の院外処方せんによる薬局サーベイランスを運用し評価する.抗インフルエンザウイルス剤を処方された人数より,対策に必要な推定患者数を算出しその有用性も検討する. 【方法】全国3,959 薬局から自動的に抗インフルエンザウイルス剤データを収集し,インフルエンザ推定患者数を算出した.サーベイランスの評価は,感染症発生動向調査及び感染症法上届出の新型インフルエンザの全数報告との比較とした.推定患者数の比較は,感染症発生動向調査と岐阜県の全数調査に基づいた推定患者数で行う. 【結果】2009 年4 月20 日から新型インフルエンザ対策として薬局サーベイランスを強化し,翌日7 時には協力薬局および自治体対策関係者に情報提供した.2009 年第28 週から2010 年第12 週までの推定患者数は,9,234,289 人であった.発生動向調査との相関係数は0.992 であった.薬局サーベイランスのインフルエンザ推定患者数,感染症発生動向調査と2 倍強の違いがみられ,岐阜県全数調査で調整した発生動向調査の推定患者数は近似していた. 【考察】薬局サーベイランスは,流行の立ち上がり,ピークの見極め,再度の流行への警戒と長期間にわたってのリアルタイムサーベイランスとして実用的であった.発生動向調査と高い相関関係を示しており,先行指標となった.日ごとのデータによる早期探知,報告基準をかえずに自動的にモニタリングすること,常時運用という態勢は有用であると示唆された.インフルエンザ推定患者数は,発生動向調査の推定患者数の過大推計が示唆され,今後の課題点と考えられた.次のパンデミックを含むインフルエンザ対策として利用可能な手段であり,またインフルエンザに限定せず,アシクロビル製剤による水痘や抗生剤の使用状況のモニタリングといった広い応用が期待される.
著者
西村 秀一
出版者
一般社団法人 日本感染症学会
雑誌
感染症学雑誌 : 日本伝染病学会機関誌 : the journal of the Japanese Association for Infectious Diseases (ISSN:03875911)
巻号頁・発行日
vol.86, no.6, pp.723-733, 2012-11-20
参考文献数
17
被引用文献数
3

本邦では,空中へ特殊な物質の放出により環境中においてウイルス不活化や殺菌の効果をもたらすとする複数の電気製品が市販されており,寒天培地上に塗布した細菌に対する殺菌効果も謳っている.そこで本研究では,プラズマクラスター,ナノイー,ビオンの3 機種について,腸球菌,黄色ブドウ球菌,緑膿菌,セレウス菌での追試を試みた.一定数の生菌含有菌液を普通寒天平板上に塗布し,14.4m<sup>3 </sup>閉鎖空間に対象機器とともに置き,機器を2 時間運転させた後培養し,出現するコロニー数を,非運転環境下においた対照のそれと比較した.その結果,調べた3 機種,4 種の菌のすべての組み合わせで,形成されるコロニーの数は対照のそれと変わらなかった.一方,細菌を塗布した寒天培地を容積0.2m<sup>3 </sup>の密閉グローブボックス内に置き,同様の実験を行ったところ,3 機種すべてが,腸球菌と黄色ブドウ球菌のコロニー形成を,程度の差はあれ対照と比べて有意に減少させ,一方緑膿菌については減少させなかった.前二者に対するコロニー形成抑制/殺菌の機序について,これらの機器が放出するオゾンが原因である可能性を検討した.その結果,殺菌効果は,それらが発生させるイオンや特殊微粒子を除去しても変わらず,一方で発生するオゾンを除去すると激減した. 以上の成績により,調べた電気製品には,1)通常の生活空間のような広い空間における使用では,ほとんど殺菌効果が期待できないこと,しかし,2)きわめて狭い空間における寒天培地上のある種の細菌という限定的な対象に対しては,ある程度の殺菌作用は認められること,だが,3)そうした効果は,一義的には,それらの機器が放出している特殊物質というより,それらが同時に放出しているオゾンによる殺菌効果で十分説明可能であること,が明らかになった.今回対象となった機器のみならず,こうした類の殺菌効果を謳う電気製品については,オゾンの関与を疑う必要があろう.
著者
堀川 和美 岡田 賢司 石橋 哲也 村上 光一 大淵 典子 植田 浩司
出版者
一般社団法人 日本感染症学会
雑誌
感染症学雑誌 : 日本伝染病学会機関誌 : the journal of the Japanese Association for Infectious Diseases (ISSN:03875911)
巻号頁・発行日
vol.69, no.8, pp.878-883, 1995-08-20
参考文献数
16
被引用文献数
1 2

1990年8月から1993年3月までの30カ月間に福岡県内6病院小児科を受診した百日咳様患者を対象として, 百日咳菌分離を行った. この期間に菌検索を行った179検体から43株 (24%) の1, 3, 6型のK抗原因子を保有する百日咳菌と1株のパラ百日咳菌を分離した. 百日咳菌を分離した患者の年齢は1歳未満が22名 (51%), 1歳から10歳が18名 (42%), 成人が3名であった. これら43名中39名がDPTワクチン未接種であったが, 3名はDPTワクチン接種済みであった. 分離菌株の23薬剤に対する最小発育阻止濃度 (MIC) を求めた. MIC測定は微量液体希釈法で行った. PIPC, EM及びCPZのMIC<SUB>50</SUB> (使用菌株50%に対するMIC値) は0.005, 0.02及び0.01μg/mlであった. また, CER及びCCLのMIC<SUB>50</SUB>は各々10及び20μg/mlであり, 分離菌株はこれら薬剤に対して耐性であった. 更に従来から用いられている寒天平板希釈法も併せて実施し, 微量液体希釈法と比較検討した. 両法による使用菌株のMICは何れの薬剤も同じかやや寒天平板希釈法の方が高かった.
著者
大西 健児
出版者
一般社団法人 日本感染症学会
雑誌
感染症学雑誌 : 日本伝染病学会機関誌 : the journal of the Japanese Association for Infectious Diseases (ISSN:03875911)
巻号頁・発行日
vol.85, no.2, pp.139-143, 2011-03-20
参考文献数
14

細菌感染症ではハイチで大流行し日本への侵入も危惧されるコレラ,フルオロキノロンに低い感性を示す菌が増加し治療に困難を伴うようになった腸チフスとパラチフス,ウイルス感染症では発症すればほぼ 100% が死亡する狂犬病,新型インフルエンザへの移行が危惧されている鳥インフルエンザ H5N1,報告数が増加傾向にあるチクングニヤ熱,寄生虫感染症ではアメリカ合衆国やカナダで集団食中毒を起こし,日本でも今後流行地からの帰国者で感染者数の増加が推測されるサイクロスポーラ症が最近注目されている輸入感染症であろう.日本人臨床医にとってこれらの輸入感染症にはなじみの少ないものもあり,診断にはこれらの疾患の存在を思いつくことが重要である.